2026年7月21日 AI活用

JR東日本のAI窓口は、なぜ「発券」だけ人に残したのか|"判断を残す"という設計思想

JR東日本のAI窓口は、なぜ「発券」だけ人に残したのか|"判断を残す"という設計思想

この記事の結論

  • JR東日本が、みどりの窓口で生成AIの実証実験を開始した(立川駅で7月20日から、大宮駅で7月23日から)
  • 現段階のAIは、利用者の要望を聞き取って係員に橋渡しする役割にとどまり、発券という最終判断は人が担っている
  • これを「技術が未熟だから人が残っている」と読むのは、一面的である
  • 浮いた人手を、高齢者や訪日客の対応といった「人でなければできない業務」に振り向ける狙いが説明されている。つまり、人を減らすためではなく、人を再配置するための自動化である
  • 営業も同じで、「送る」という最終判断は、AIが賢くなっても人に残すべき領域である

AIが聞き取り、人が発券する

「東京から大宮まで、明日2人分」。

利用者がそう話しかけると、AIが区間と日時と人数を聞き取り、要点を整理して窓口の係員に渡す。JR東日本が、みどりの窓口で始めた生成AIの実証実験です。立川駅では7月20日から、大宮駅では7月23日から、実際の利用者を相手にした検証が動いています。 (出典:shiritomo、日本経済新聞ほか)

ここで注目したいのは、AIの役割が「どこまで」かという点です。

現段階でAIが担っているのは、聞き取りと情報整理まで。切符を発券する作業そのものは、係員が行っています。発券まで含めた完全な自動化は、2030年代初頭が目標とされています。

つまり、いちばん最後の「発券する」という判断は、いまも人の手に残されているのです。


「技術が未熟だから」と読むのは、一面的です

この構図を、多くの人はこう受け取ると思います。「AIがまだ完璧じゃないから、念のため人を残している」。技術が追いつけば、人はいずれ不要になる。過渡期の、一時的な妥協だと。

もちろん、精度の検証という側面はあります。雑音の多い駅構内で正しく聞き取れるか、話しかけること自体に抵抗がないか。そうした評価が目的の一つであることは、報じられているとおりです。

ですが、それだけではないように見えます。

JR東日本の担当者は、AIが対応を担うことで浮いた人員を、高齢者や訪日外国人観光客のサポートといった「人でなければできない業務」に振り向けられる、と説明しています。 (出典:shiritomo)

これは、人を減らすための自動化ではありません。人を、機械に向かない仕事へ再配置するための自動化です。

だとすれば、「発券を人に残す」ことの意味も変わってきます。それは技術が未熟だから仕方なく残しているのではなく、残すべきものとして残している。そう読むほうが、一連の説明とは筋が通ります。


何を自動化し、何を残すか

もちろん、この動きに疑問がないわけではありません。

現場で働く側からは、本当に利用者が求めているのはAI化ではなく、窓口の人員増や券売機の改善ではないか、という声も上がっています。賛否は割れています。 (出典:shiritomo)

この声は、大事な問いを含んでいます。自動化そのものが目的化していないか。効率化の名のもとに、本当に必要な人の手まで削っていないか。

裏を返せば、問われているのは「AIか、人か」という二択ではありません。何を自動化し、何を人に残すのか。その線引きをどこに引くか、という設計の問題です。

線引きを誤れば、残すべき人の判断まで機械に明け渡してしまう。逆に、線を正しく引けば、人は雑務から解放され、人にしかできない仕事に集中できる。同じ「AI導入」でも、線の引き方で結果は正反対になります。


営業の現場も、まったく同じです

ここからは、私たちの領域の話をさせてください。

弊社は、BtoB営業を支援するAIをつくっています。そして、この「何を自動化し、何を残すか」という問いに、日々向き合っています。

営業の作業には、自動化してよいものがたくさんあります。送り先のリストをつくる。相手を調べて、1社ごとに文面を整える。送ったあとの記録を残す。こうした手間は、AIが引き受けたほうがいい。人がやるべき理由は、もうありません。

けれど、一つだけ、人に残すと決めているものがあります。


「送る」という最終判断です。

この相手に、この文面を、本当にいま送っていいのか。その一瞬の判断は、AIに渡しません。JR東日本が発券を人に残したのと、同じ考え方です。

なぜなら、送るという行為には、相手がいるからです。受け取る人がどう感じるか、いま送るのが適切か、それは効率では割り切れない。数を増やすことと、適切に届けることは、別のものです。だから最後は、人が決める。



「人だから残す」のではなく「残すべきだから残す」

AIが賢くなればなるほど、この線引きは重要になります。

「AIがまだ未熟だから、人が確認している」のなら、精度が上がった瞬間に、人はいらなくなります。けれど、「これは人が判断すべき領域だから、人に残している」のなら、AIがどれだけ賢くなっても、その判断は人の手に残り続けます。

JR東日本の発券も、私たちの送信ボタンも、後者でありたい。そう考えています。

自動化の時代に問われているのは、「どこまでAIにできるか」ではなく、「どこからは人が決めるべきか」です。その線を、技術の都合ではなく、意志で引く。それが、これからの自動化の分かれ目になるはずです。

よくある質問

JR東日本のAI窓口では、AIが何をしているのですか?
現段階では、利用者の要望(区間・日時・人数・割引の有無など)を聞き取り、要点を整理して窓口の係員に渡す役割を担っています。切符を発券する作業そのものは係員が行っており、発券まで含めた完全な自動化は2030年代初頭が目標とされています。立川駅で7月20日から、大宮駅で7月23日から、実際の利用者を対象とした実証実験が行われています(出典:shiritomo、日本経済新聞ほか)。
最終判断を人に残すのは、AIの精度が低いからではないのですか?
精度の検証は目的の一つですが、それだけではないと考えられます。JR東日本は、AIが対応を担うことで浮いた人員を、高齢者や訪日客の対応といった「人でなければできない業務」に振り向ける狙いを説明しています。これは人を減らすためではなく、人を再配置するための自動化です。この文脈では、判断を人に残すことは技術的な妥協ではなく、意図的な設計と読むほうが自然です。
これは営業活動にどう関係するのですか?
営業の作業(リスト作成、文面作成、記録)の多くは自動化できますが、「この相手に、この文面を、いま送るか」という最終判断は人に残すべき領域だと弊社は考えています。送る行為には必ず受け手がいて、その適切さは効率だけでは割り切れないためです。JR東日本が発券を人に残したことと、同じ考え方です。自動化で問われるのは「どこまでAIにできるか」よりも「どこからは人が決めるべきか」です。

営業の作業は、AIに任せられます。

リスト集め・メール作成・追客を自動化。最後の送信だけ、人が決める。

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